財産を公平に分ける財産分与を解説
離婚をするときに避けて通れない問題の一つに、夫婦の財産を公平に分ける財産分与があります。
必ずしも財産分与をしなくても離婚は可能ですが、権利があるお金を受け取りたい気持ちを持って当然でしょう。
婚姻期間が短い夫婦は、共有財産の多くが現金で金額も少なく分けやすい傾向にあります。一方で、婚姻期間が長い夫婦は、共有財産が多く住宅やローンがあり簡単に分けられない場合があります。
財産分与は離婚する夫婦の問題であり、当事者で解決しなければならない問題です。財産分与の対象となる財産や分与割合を理解していないと、権利がある財産が受け取れなくなってしまいます。
また、住宅はそのままでは分けられない財産ですし、負債は夫婦の合意だけでは解決できず問題が複雑になります。
財産分与を詳しく理解できれば、権利がある財産を受け取れますし財産分与の話し合いもスムーズに進みます。
財産分与の対象となる財産や分割割合を解説します。
❏【 目 次 】 財産を公平に分ける財産分与を解説
1 財産分与の基礎知識
1-1 財産分与の考えを理解しよう
1-2 財産分与には複数の意味合いがある
1-3 離婚後でも財産分与の請求は可能
1-4 財産分与は原則非課税
2 財産分与の対象となる財産とならない財産
2-1 分与の対象となる財産=共有財産
2-2 分与の対象とならない財産=特有財産
2-3 マイナスの財産である負債の扱われ方
財産分与の基礎知識
財産分与という言葉を知っていても、財産分与の基本的な考えを理解できていない方もいると思います。
専業主婦やパート勤務で所得が少なく、財産を受け取れないと思っている方もいれば、所有する財産が少ないので関係ないと思っている方もいるようです。
このような場合でも財産を受け取れる場合があり、財産分与を理解していないと受け取れるお金が受け取れない可能性があります。
財産分与は、法律や過去の判決から対象となる財産や分割割合がほぼ決まっています。しかし、離婚する夫婦の問題でもありますので、お互いが合意できれば自由に決めることができます。
ただし、裁判で決まる財産分与と掛け離れていると合意できない場合が多く、裁判の判決に近い内容での合意が一般的です。
対象となる財産にはさまざまなものがあり、貯金や不動産はもちろんですが厚生年金や生命保険も対象です。また、住宅ローンなどの負債も財産分与の対象であり、対象となる財産を理解しないと公平に分けれません。
一方で、財産分与の対象にならない財産もあり、分与する必要はなく離婚しても一方のみが所有できる財産があります。
今後の生活を考えても権利がある財産は受け取りましょう。
財産分与の考えを理解しよう
婚姻期間中は実質的に夫婦で財産を共有している家庭が一般的で、共有している財産を離婚時には公平に分ける必要が出てきます。
離婚時に夫婦の共有財産を分けることを「財産分与」と呼んでいます。
法律でも「離婚の際には相手方に対し財産の分与を請求できる」と民法768条1項で定めており財産分与は正当な権利です。
財産分与は相手から金銭を得るのではなく、お互いの共有財産を貢献度により公平に分け合う考えです。
離婚時には夫婦仲が険悪になっており、配偶者とお金の話し合いに抵抗を感じる方も居ます。そのため、財産分与の取り決めを行っておらず、権利がある財産を受けたらないで離婚をする夫婦も居るようです。
財産分与は法律が認めている正当な権利です。離婚後のトラブルを避けたり損をしないためにも、夫婦間でしっかりと財産の分与を行う必要があります。
財産分与には複数の意味合いがある
財産分与の中核は「清算的財産分与」であり、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算する意味を持ちます。
ただし、精算的財産分与以外の意味合いを持つ財産分与もあります。
財産分与は主に次の3つの要素で構成されます
清算的財産分与
夫婦が婚姻中に形成した財産の清算で、日本的に財産分与の大部分を占める
扶養的財産分与
経済的に困窮する場合には、一定期間を扶養するための財産分与が認められる
慰謝料的財産分与
一方に慰謝料の支払い義務がある場合に、慰謝料としての意味を含む分与がある
清算的財産分与
財産分与の中核となるのが清算的財産分与で、一般的に財産分与の大半を清算的財産分与が占めます。
清算的財産分与とは、「結婚している間に、夫婦間で協力して形成・維持してきた財産を、離婚の際には貢献度に応じて公平に分配する。」考え方に基づきます。
つまり、婚姻期間中の貯蓄や購入した住宅などは、原則として全てが財産分与の対象です。
財産分与は財産の名義人には関係なく実質的な判断がなされます。夫婦の一方の名義になっている預貯金、住宅、車であっても財産分与の対象です。
清算的財産分与は一方に離婚原因があっても考慮されず、あくまでも2人の財産を2人で公平に分け合う考えです。
清算的財産分与は、離婚原因を作った側である有責配偶者からも請求ができます。
扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚をした夫婦の片方が生活に困窮してしまう事情があるときに、生計を補助する扶養的な目的の財産分与です。
夫婦の片方が、病気、経済力に乏しい専業主婦、高齢、仕事ができない事情があると認められる場合があります。
離婚をすると夫婦は法律上は他人に戻り扶養義務はなくなります。しかし、経済的に強い立場の人が弱い立場の人に対して、離婚後も一定期間扶養する目的で認められる場合があります。
明確な金額や期間は決まっていませんが、月に数万円を半年~3年間ほど支払うケースが多いようです。
慰謝料的財産分与
離婚時のお金の問題は財産分与だけでなく、離婚原因によっては慰謝料が認められるケースがあります。
浮気やDVなどの不法行為が離婚原因である場合には、慰謝料の支払い義務が有責任者に発生します。
財産分与と慰謝料は全く異なる意味合いを持つお金であり、慰謝料と財産分配を通常は分けて考えます。
しかし、全ての共有財産が現金である夫婦は少なく、住宅や車などの財産や負債があり分けられないケースもあります。
財産がうまく分けられないときには、慰謝料と財産分与を明確に区別せず「財産分与」としてまとめて清算をする場合があります。
財産分与に慰謝料も含む形になり、「慰謝料的財産分与」と呼ばれています。
離婚後でも財産分与の請求は可能
離婚と同時に財産分与を完了させるケースが一般的です。
離婚するときには、財産分与以外にも多くの取り決めが必要で、全てをまとめて話し合うと合理的だからです。
ただし、財産分与は必ずしも離婚と同時に行う必要はありませんので、離婚が成立した後からでも財産の分与を請求できます。
財産分与は2年を過ぎると時効で請求できませんが、2年以内であれば財産分与の請求が法律上は可能です。
財産分与を離婚後に先延ばしすると、対象となる財産の把握な難しい問題と財産がなくなってしまう可能性があります。また、財産分与の交渉に精神的負担を感じますし、2年の時効を過ぎて請求できなくなってしまう場合もあるようです。
子どもの苗字や学区の関係で早く離婚を成立させたいなど、特別な事情がある場合を除き離婚時に財産分与を確定させましょう。
財産分与は原則非課税
財産分与で受け取った財産に対しては、基本的に税金は発生しません。
財産分与に贈与税が発生しない理由は、共有の財産をお互いで分ける考え方に基づきます。
財産分与は相手から金銭を得た訳ではなく、共有している財産を分けただけで贈与にはあたらず贈与税は発生しません。また、財産を分けただけで所得を得た訳ではありませんので、所得税や相続税も原則としてに発生しません。
相手の名義になっている預貯金や住宅を財産分与で得たとしても、実質的に夫婦の共有財産であれば税金は発生しません。
ただし、一部のケースでは税金が発生する可能性があります。
財産の分割割合が貢献度よりも多いと判断されると、多い金額に対しては贈与を受けたと考えられ贈与税が発生します。また、土地や建物が購入時より値上がりしていると、譲渡所得が発生したと考えられ税金が発生する場合があります。
例外として税金が発生するケースもありますが、通常の財産分与であれば税金は発生しない場合が多いです。
財産分与の対象となる財産とならない財産
財産分与を行うときには、財産分与の「対象となる財産」と「対象にならない財産」を明確に区別する必要があります。
財産分与の考えは、「結婚している間に、夫婦間で協力して形成・維持してきた財産については、その名義のいかんにかかわらず夫婦の共有財産と考え、離婚の際には、それぞれの貢献度に応じて公平に分配する。」です。
財産分与の対象になる財産かは、現金や土地など財産の物理的な違いでは判断されません。物理的に同じ財産であっても、どのように手にしたのか経緯で判断がなされます。
たとえば、自宅は婚姻期間中に夫婦の協力で入手したのであれば財産分与の対象です。しかし、結婚前から一方が所有していたり婚姻期間中でも相続であれば、夫婦で協力して手に入れた財産ではなく財産分与の対象ではありません。
また、財産の名義人には左右されませんので、一方の名義になっている預貯金、車、住宅、ローンも財産分与の対象です。
分与の対象となる財産=共有財産
財産分与の対象となる共有財産か否かの判断は、財産の名義人には影響されず実質的な判断で決まります。
「婚姻期間中に夫婦の協力により形成・維持されてきた財産」は、名義に関わらず分与の対象である共有財産と判断されます。
財産分与を決める際の婚姻期間中とは、法律上の婚姻関係がある期間ではなく実質的な判断がなされます。離婚届けを提出しておらず法律上は夫婦でも、夫婦関係が破綻した後に手にした財産は夫婦の協力がないと考えられ分与の対象ではありません。
また、婚姻期間中に夫婦の生活のためのローンや借金の負債も、財産分与の対象ですので注意しましょう。
婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた財産は、名義人に関わらず財産分与の対象です。
分与の対象となる財産
・現金や預貯金
・車やバイク
・住宅や土地の不動産
・株や国債などの有価証券
・保険解約返戻金(生命保険などを解約した場合に戻ってくるお金)
・退職金(将来受け取る予定の退職金も対象)
・家財道具、骨董品、絵画など
・公的年金(厚生年金は対象ですが国民年金は対象外)
・宝くじなどの当選金
・住宅ローンや生活費の負債
分与の対象とならない財産=特有財産
財産分与の対象にはならない財産は、「特有財産」と呼ばれる財産があります。
特有財産とは「婚姻前から片方が有していた財産」と「婚姻中でも夫婦の協力とは無関係に取得した財産」です。
特有財産は、婚姻中に夫婦の協力により得た財産とは考えられず、共有財産ではありませんので財産分与の対象にはりません。
ただし、婚姻中に夫婦が協力し価値が維持された財産や価値が増加した財産は、夫婦の貢献があったと認められれば財産分与の対象と判断されます。
夫婦が協力して築き上げた財産とは考えられない財産は、財産分与の対象になりません。
婚姻前から片方が所有していた財産
・婚姻前から所有している定期貯金
・婚姻前に購入した車やバイク
・婚姻前から所有している住宅や土地の不動産
・婚姻前から所有している株や国債などの有価証券
・婚姻前から所有している家財道具、骨董品、絵画など
・奨学金など婚姻前からある負債やローン
夫婦の協力とは無関係に取得した財産
・婚姻中であっても相続により得た現金や不動産
・子どもなど第三者がアルバイトなどで貯めたお金
・交通事故などの損害保険金のうち、慰謝料に相当する部分
・夫婦の片方が経営している法人の資産(法人の財産は夫婦の財産とは別として考ます)
・離婚前であっても別居後に得た財産(夫婦の協力がなくなってから取得した財産)
マイナスの財産である負債の扱われ方
財産分与では、マイナスの財産である負債も分与の対象です。
財産分与の対象となる負債は、生活費としての借り入れ、夫婦の生活の場所である住宅のローン、生活や通勤に使う車のローンなどが該当します。
一方で、夫婦の生活には関係ない個人的な借金に関しては、原則として財産分与の対象にならないと考えられています。たとえば、ギャンブルや骨董品など夫婦の一方が個人的な趣味で作った借金は財産分与の対象にはなりません。
また、結婚前からある借金は、共有財産とは考えられず財産分与の対象ではありません。たとえば、学生時代に借りた奨学金や親の借金は、財産分与の対象にはならず本人が全額引き受ける必要があります。
経営している法人の借金がある場合には、夫婦の借金とは別と考えられ財産分与の対象にはなりません。
負債を分与するときには、夫婦の合意だけでは解決できず銀行との契約変更が必要なケースが一般的です。銀行が契約の変更(連帯保証人の解除やペアローンの解消)に応じてくれず分与ができない問題が発生します。
このような場合には、負債を引き受ける側が同等の財産も受け取り、公平に財産を分与する方法を取るケースが多いようです。
負債があるときにはローンの契約内容の確認をしないと、後にな大きな問題に発展する可能性があります。
住宅ローンの名義人が夫であり負債を引き受けるのも夫でも、妻が連帯保証人になっていると支払い義務は継続します。
連帯保証人は契約者の支払いが滞ると返済する義務負い、この契約は銀行と連帯保証人の契約であり離婚をしても解消されません。離婚をしても連帯保証人には支払い義務が残り、契約者の支払いが滞ると連帯保証人に支払い義務が発生します。
一般的な夫婦が離婚をする場合には、負債として住宅ローンを抱えている夫婦は少なくありません。住宅ローンは金額が大きく連帯保証人やペアローンが多く、契約の解消に銀行が応じないケースが多いようです。
連帯保証人やペアローンの契約解消は、離婚する夫婦の話し合いだけでな解決できません。銀行が契約変更を認めない場合には、住宅を売却し負債を解消しなければ解決ができません。
ただし、住宅の売却には時間が掛かりますし、売却してもローンが完済できない可能性もあります。
財産分与の分割割合
財産分与の分割割合は、「財産の形成や維持に夫婦がどの程度貢献したのか」という点に基づき決まります。そして、夫婦の貢献度が同等と考えられれば、原則として分与の割合は2分の1ずつが基本です。
夫の給料で生計を建てており妻が専業主婦のケースでは、所得の違いから妻は財産の分与が得られないと考える方もいます。しかし、妻にも財産を受け取る権利があります。
財産分与での夫婦の協力とは所得だけではなく、「夫は会社で仕事を行い」「妻は家で家事や育児を行った」と考えられるからです。所得が異なっていても夫婦の協力で家庭が維持できたのであれば、夫婦の財産分与の割合は2分の1ずつです。
財産分与の分割割合は、さまざまな事情が考慮され決まりますので、個別の状況によって分割割合が修正される場合があります。
たとえば、夫婦の片方が特殊な能力や努力で高額な所得があれば、特殊な能力や努力を考慮しなければ不公平になってしまいます。そのため、分与の割合が夫婦の貢献度に応じて修正される可能性が高いでしょう。
高額所得者の夫と専業主婦が離婚するときには、財産分与の割合が2分の1ずつにはならないようです。
まとめ
婚姻期間中は財産を夫婦で共有している家庭が一般的ですが、離婚時には夫婦の共有財産を公平に分ける必要が出てきます。
財産分与は、離婚する夫婦で解決しなければならない問題であり、第三者は代わりに行ってくれません。そのため、一部の夫婦では財産分与を適切に行わず、受け取れる財産を受け取らずに離婚をしているケースがあります。
夫婦の財産を公平に分けるには、分与の対象となる財産と分割割合を理解し夫婦で適切に分与する必要があります。
財産分与の対象となる財産を共有財産と呼び、「婚姻期間中に夫婦の協力により形成・維持されてきた財産」は「名義人に関わらず財産分与の対象」と判断されます。
一方で、財産分与に含まれない財産を特有財産と呼び、「婚姻前から片方が有していた財産」と「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」は、「財産分与の対象外」です。
財産分与では、財産だけではなく負債も対象なので注意しましょう。
財産の分割割合は原則として2分の1で、夫婦の一方に収入がない場合でも財産分与を得る権利があります。これは、夫は会社で仕事を行い妻は家で家事や育児を行ったと考えられるからです。
財産分与は元々夫婦が所有している財産を分けただけですので、所得を得たとは考えられず原則として税金は発生しません。
また、財産分与は一般的に離婚と同時に決めますが、時効である離婚後2年以内であれば財産分与を請求できる権利があります。
お金の話で揉めたくないと思う方もいるかもしれませんが、財産分与は相手からお金を取る訳ではありません。お互いの財産を公平に分ける意味を持ち、法律でも認めている正当な権利です。
離婚時には夫婦で話し合いを行い、適切にな財産の分与を受け取るべきではないでしょうか。