離婚時の財産分与を解説


夫婦が離婚をするときに避けて通れない、財産分与について詳しく知りたい方は多いのではないでしょうか?
結婚をして期間が経っていない夫婦であれば共有財産は少ないかも知れませんが、ある程度の婚姻期間が長い夫婦であれば財産分与の対象となる財産がある場合が多く、財産分与の話は避けて通ることができない問題となります。

財産分与は第三者が決めてくれるものではありませんので、当事者である夫婦で解決しなければならない問題です。財産分与の対象となる財産や分与の割合を知らなかったなどの理由で、受け取れるはずの財産を受け取れなくなってしまうこともあるでしょう。
また、住宅ローンなどの負債がある夫婦も多いと思いますし、自宅など分けることが出来ない財産がある夫婦では問題が複雑になってしまうことがあります。

財産分与について詳しく知ることができれば、適正な財産の分与を受け取ることができますし、財産分与の話し合いをスムーズに勧められるメリットもあります。
このページでは、財産分与の対象となる財産や分割割合などを解説していきたいと思います。

❏【 目 次 】 離婚時の財産分与を解説


財産分与の基礎知識

財産分与と言う言葉を知っている方は多いと思いますが、財産分与とはどの様な意味があるものかを理解できている方は少ないのではないでしょうか?
専業主婦で所得が無い方やパート勤務で所得が少ない方は、財産の分与を受け取れないと思っている方もいると思います。また、所有する財産が少ないので余り関係が無いと思っている方もいるかもしれません。
このような誤解は、財産分与について良く理解していないことが原因となっている場合が多いようです。

財産分与は、法律や過去の裁判などから対象となる財産や分割割合が決まっていますが、離婚する夫婦の問題でもありますのでお互いに納得ができれば自由に決めることができます。
ただし、裁判を行ったときに決まる財産分与と掛け離れていると合意できない場合が多くなりますので、裁判の判決に近い分与割合で合意するケースが一般的です。

対象となる財産には様々なものがあり、貯金や不動産はもちろんですが厚生年金や生命保険なども対象となるものもあります。また、住宅ローンなどの負債も対象になりますので、まずは対象となる財産をしっかりと理解することが大切です。
一方で、財産分与の対象にならない財産もありますので、このような財産は夫婦で分与する必要はなくどちらか一方の財産となります。
離婚時には、自分に認められる財産をしっかりと受け取ることは、今後の生活を考えても大切なのではないでしょうか?

財産分与とはどの様な意味があるもの?

婚姻期間中は、実質的に夫婦で財産を共有している家庭が一般的だと思いますが、この夫婦の共有している財産を離婚時にはお互いに公平に分ける必要がでてきます。
このように、離婚時に夫婦の共有財産を分けることを「財産分与」と呼んでいます。
法律でも「離婚の際には相手方に対し財産の分与を請求することができる」と民法768条1項で定められていますので、財産分与は正当な権利と考えて良いでしょう。

財産分与は相手より金銭を得るという考えではなく、お互いの共有財産を貢献度により平等に分け合うという考え方に基づきます。
離婚時には夫婦仲が険悪になっている場合も多く、配偶者とお金の話し合いに抵抗を感じてしまうなどの理由で、財産分与の取り決めを行わず権利がある財産を貰わないで離婚をする夫婦も少なくないようです。
財産分与は法律で認められている正当な権利です。離婚後のトラブルを避けたり後悔をしないためにも、夫婦間でしっかりと取り決めを行うことが大切です。

財産分与は名義人には関係なく共有財産を分けますので、財産の名義人には関わらず実質的な判断がされます。そのため、夫婦のどちらか一方の名義になっている預貯金、住宅、車などであっても財産分与の対象になります。
また、不貞行為やDVなど離婚原因がどちらか片側にある場合でも、離婚原因には関わらず離婚の有責任者にも財産を受け取る権利があります。

財産分与には複数の意味合いがある

財産分与の中核となるものは「清算的財産分与」であり、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算することを指しますが、その他の意味合いを持つ財産分与が存在するケースがあります。

財産分与は主に次の3つの要素で構成されます

  • 清算的財産分与
    夫婦が婚姻中に形成した財産の清算
  • 扶養的財産分与
    離婚により困窮する元配偶者の扶養
  • 慰謝料的財産分与
    傷つけたことに対する慰謝料としての意味を含むもの

清算的財産分与

財産分与の中でも最も中核となるものが清算的財産分与で、財産分与の大半を清算的財産分与が占めるケースが多くなります。
清算的財産分与とは、「結婚している間に、夫婦間で協力して形成・維持してきた財産については、その名義のいかんにかかわらず夫婦の共有財産と考え、離婚の際には、それぞれの貢献度に応じて公平に分配する。」という考え方に基づくものです。
つまり、相手名義の住宅や預貯金、住宅ローンも分与の対象になりますし、あなた名義の預貯金などであっても分与の対象となると言うことです。

清算的財産分与は、離婚原因などには左右されるものでは無く浮気など一方に離婚原因がある場合であっても考慮されず、あくまでも2人の財産を2人で公平に分け合うという考え方になります。
そのため、清算的財産分与は、離婚原因を作った側である有責配偶者からも請求することが認められます。

扶養的財産分与

扶養的財産分与の考え方は、離婚をした夫婦の片方が生活に困窮してしまうという事情があるときに、その生計を補助するという扶養的な目的で財産が分与されることを言います。
離婚時に夫婦の片方が、病気であったり経済力に乏しい専業主婦(主夫)、高齢、仕事ができないなどの事情がある場合などで認められることがあります。

離婚をすると夫婦は法的に他人となりますので扶養義務はなくなりますが、経済的に強い立場の配偶者が経済的弱い立場の配偶者に対して、離婚後もその者を扶養する目的で認められる場合があります。
明確に金額や期間が法律で決められているものではありませんが、月に数万円の金額を半年~3年間ほどの期間支払うケースが多いようです。

慰謝料的財産分与

離婚時に発生するお金の問題では財産分与だけでなく、離婚原因によっては慰謝料の請求が認められるケースがあります。
財産分与と慰謝料は全く異なる意味合いを持つお金ですので、浮気やDVなどの精神的苦痛に対しては慰謝料として請求をし、財産の分配とは分けて考えることが基本となります。
ただし、全ての共有財産が現金である夫婦は少なく、住宅や車など分けることができない財産やローンなどの負債があるときには、財産をうまく分けることができないケースも少なくありません。

このようなときには、慰謝料と財産分与を明確に区別して分けることが困難となりますので、これらをまとめて考え「財産分与」として清算をすることがあります。
この場合の財産分与は「慰謝料も含む」形になりますので慰謝料的財産分与と呼ばれています。

離婚後でも財産分与の請求は可能

財産分与は、離婚と同時に財産分与を完了させるケースが一般的です。
ただし、財産分与は必ずしも離婚と同時に行う必要は無く、先に離婚を成立させて離婚後に財産分与の話し合いを行い決めることができます。
財産分与には、時効が定められていますので2年を過ぎると分与ができなくなりますが、2年以内であれば財産の分与を請求することが法律上は可能となります。

ただし、財産分与を離婚後に行うときには、財産分与の対象になる財産を把握しにくくなったり財産を相手が使い無くなってしまうなどのリスクがあります。
また、離婚後に財産分与の交渉を行うことに精神的負担を感じることもありますし、2年という時効を過ぎてしまい財産分与を請求できなくなってしまうこともあるでしょう。
そのため、子どもの苗字や学区などの関係で学校入学前に離婚を成立させたいなど、特別な事情がある場合を除き離婚時に財産分与を確定させた方が良いでしょう。

財産分与は原則非課税

財産分与で得た財産に対しては、基本的に税金が発生することはありません。
財産分与に贈与税が発生しない理由は、共有の財産をお互いで分けるという考え方に基づきます。
そのため、相手から金銭を得た訳ではなく元々夫婦が共有している財産を分けただけですので、贈与を受けたことにはならず贈与税が発生することはありません。また、財産を分けただけで所得を得た訳でもありませんので、所得税や相続税も基本的に発生することはありません。
相手の名義になっている預貯金や住宅を財産分与で得たとしても、実質的に夫婦の共有財産と考えられるものであれば税金が発生することはありません。

ただし、財産の分割割合がお互いの貢献度よりも多いと判断された場合には、多い金額に対しては贈与を受けたと考えられますので贈与税が発生することになります。
また、土地や建物などが購入時より値上がりしていたときには、譲渡所得が発生したと考えられ税金が発生することがあります。
このように例外として税金が発生する場合はありますが、通常は財産分与で税金が発生するケースは少ないと考えて良いでしょう。


財産分与の対象となる財産

財産分与を行うときには、財産分与の「対象となる財産」と「対象にならない財産」を明確に区別する必要がでてきます。
財産分与の基本的な考え方として、「結婚している間に、夫婦間で協力して形成・維持してきた財産については、その名義のいかんにかかわらず夫婦の共有財産と考え、離婚の際には、それぞれの貢献度に応じて公平に分配する。」ことになります。

財産分与の対象になる財産かの判断は、現金や土地など財産の物理的な違いで判断される訳ではなく、どのような経緯で手にした財産かで判断されることになります。
例えば、自宅の場合には婚姻期間中に夫婦で協力して手に入れたのであれば財産分与の対象となりますが、結婚前から一方が所有していた財産や婚姻期間中であっても相続など夫婦で協力して手に入れた財産とは言えないものに関しては、財産分与の対象とはなりません。
また、財産の名義人には左右されませんので、相手(又は自分)名義の財産(預貯金、車、住宅、ローンなど)であっても、共有財産であれば財産分与の対象となります。

財産分与の対象となるもの=共有財産

財産分与の対象になる共有財産か否かの判断は、財産の名義人には影響されず実質的な判断により決まります。
「婚姻期間中に夫婦の協力により形成・維持されてきた財産」であれば、名義に関わらず、財産分与の対象である共有財産と判断されます。
この場合の婚姻期間中とは、法律上の婚姻関係がある期間ではなく実質的な判断となります。そのため、離婚届けを提出していない場合であっても、別居などで夫婦関係が破綻した後に手にした財産は分与の対象とはなりません。
また、婚姻期間中に夫婦の生活のために出来たローンや借金などの負債も、財産分与の対象になりますので注意が必要です。

婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた財産であれば、名義人に関わらず以下のものは財産分与の対象になると考えられます。

財産分与の対象となるもの

  • 現金や預貯金
  • 車やバイクなど
  • 住宅や土地などの不動産
  • 株や国債などの有価証券
  • 保険解約返戻金(生命保険などを解約した場合に戻ってくるお金)
  • 退職金(将来受け取る予定の退職金も対象)
  • 家財道具、骨董品、絵画など
  • 公的年金(厚生年金は対象になりますが、国民年金は対象になりません)
  • 宝くじなどの当選金
  • 住宅ローンや生活費などの負債

財産分与の対象とならないもの=特有財産

財産分与の対象にはならない財産には、「特有財産」と呼ばれるものがあります。
特有財産とは「婚姻前から片方が有していた財産」と「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」のことをいいます(民法762条1項)。
これらの財産は、婚姻中に夫婦の協力により得た財産とは考えられませんので、共有財産とはならず財産分与の対象とはなりません。
ただし、婚姻中に夫婦が協力したことで価値が維持されたものや価値が増加したのは、夫婦の貢献があったと認められれば財産分与の対象と判断されることがあります。

夫婦が協力して築き上げた財産とは考えられない財産であれば、名義人に関わらず以下のものは財産分与の対象になりません。

婚姻前から片方が所有していた財産

  • 婚姻前から所有している定期貯金
  • 婚姻前に購入した車やバイクなど
  • 婚姻前から所有している住宅や土地などの不動産
  • 婚姻前から所有している株や国債などの有価証券
  • 婚姻前から所有している家財道具、骨董品、絵画など
  • 奨学金など婚姻前からある負債やローン

夫婦の協力とは無関係に取得した財産

  • 婚姻中であっても相続により得た現金や不動産など
  • 子どもなど第三者がアルバイトなどで貯めたお金
  • 交通事故などの損害保険金のうち、慰謝料に相当する部分
  • 夫婦の片方が経営している法人の資産(法人の財産は夫婦の財産とは別として考えられます)
  • 離婚前であっても別居後に得た財産(夫婦の協力が無くなってから取得した財産)

マイナスの財産である負債の扱われ方

財産分与では、マイナスの財産である負債も分与しなければなりません。
財産分与の対象となる負債は、生活費としての借り入れ、夫婦の生活の場所である住宅のローン、生活や通勤に使う車のローンなどが該当し、これらはの負債は財産分与の対象になると考えられます。
一方で、夫婦の生活には関係のない個人的な借金に関しては、原則として財産分与の対象にならないと考えられています。例えば、パチンコや骨董品など個人的な趣味のために作った借金に関しては、財産分与の対象にならないと考えられます。
その他、結婚前からある借金に関しては、共有財産とは考えられず財産分与の対象とはなりません。例えば、学生時代に借りた奨学金や親の借金などは、財産分与の対象としては扱われませんので本人が全額引き受けることになります。
また、経営している法人の借金も、夫婦の借金とは別と考えられますので財産分与の対象にはなりません。

負債を分与するときには、夫婦間の合意だけでは解決できず銀行などの契約内容の変更が必要なケースが一般的で、銀行が契約の変更(連帯保証人の解除やペアローンの解消)に応じてくれないことも多く分与が難しい問題が発生します。
そのため、負債を引き受ける側が同等の財産も受け取ることで、公平に財産を分与する方法が取られることが多いようです。
負債があるときには、ローンの契約内容を確認することが大切でとなります。
例えば、住宅ローンの名義人が夫であり負債を引き受けるのも夫であったとしても、妻が連帯保証人になっている場合には注意が必要です。
連帯保証人は、契約者の支払いが滞ったときに代わりに返済する義務負いますが、この契約は銀行と本人(連帯保証人)の契約で離婚をしたからと言って解消されるものではありません。そのため、離婚をした後も連帯保証人には支払い義務が残り、支払いが滞った場合には連帯保証人に支払い義務が発生します。

一般的な夫婦が離婚をする場合には、負債として住宅ローンを抱えている夫婦も多いと思いますが、住宅ローンは金額が大きく連帯保証人が必要なケースやペアローンのケースが多く、これらの契約の解消が困難なケースが少なくありません。
連帯保証人やペアローンの契約解消は銀行が認めてくれない場合が多いですので、住宅を売却し負債を解消しなければ解決ができないケースも多いでしょう。ただし、住宅の売却には時間が掛かることも多い為、離婚を成立させるまでにも時間が掛かってしまうことが多くなるでしょう。


財産分与の分割割合

財産分与の分割割合は、「財産の形成や維持に夫婦がどの程度貢献したのか」という点に基づき決められますが、原則として分与の割合はそれぞれ2分の1ずつが基本となります。

夫の給料で生計を建てており妻が専業主婦の場合には、所得の違いから妻は財産の分与を得られないと考える方も居るようですが、通常はそのようには考えられていません。
夫だけに収入がある場合であっても、「夫は会社で仕事を行い、妻は家で家事や育児を行った」ことで家庭が維持できた居たと考えるられるため、夫婦の共有財産の財産分与の割合は2分の1ずつと考えられています。

財産分与の分割割合は、様々な事情が考慮され事案ごとに決められますので、個別の状況によって分割割合が修正されることもあります。
例えば、夫婦の片方が特殊な能力や努力によって高額な所得を得ている場合には、その特殊な能力や努力を考慮しなければ不公平となってしまいますので、分与の割合が夫婦の貢献度に応じて修正される可能性が高いと考えられます。
このような事情から、高額所得者の夫と専業主婦の場合には、財産分与の割合が2分の1ずつにはならないことも多いようです。


まとめ

婚姻期間中は、財産を夫婦で共有している家庭が多いと思いますが、この夫婦の共有財産を離婚時にはお互いに公平に分ける必要があり、このことを財産分与と呼んでいます。
財産分与は、離婚する当事者である夫婦で解決しなければならない問題ですので、一部の夫婦では財産分与を適切に行わず受け取れずはずの財産を受け取らずに離婚をしているケースもあるようです。
夫婦の財産を公平に分ける為には、分与の対象となる財産と分割割合を理解し夫婦で適切に分与する必要があります。

財産分与の対象となる財産を共有財産と呼び、「婚姻期間中に夫婦の協力により形成・維持されてきた財産」であれば、名義人に関わらず財産分与の対象である共有財産と判断されます。
一方で、財産分与に含まれない財産を特有財産と呼び、「婚姻前から片方が有していた財産」と「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」は、財産分与の対象とならない特有財産と判断されます。
これらは、財産だけではなくローンなどの負債も対象になりますので注意しましょう。
財産の分割割合は原則として2分の1づつになり、専業主婦など収入が無い場合であっても、夫は会社で仕事を行い妻は家で家事や育児を行ったと判断されれば、妻にも財産分与を得る権利があります。

財産分与は元々夫婦が所有している財産を分けただけですので、所得を得たとは考えられず税金が発生することはありません。
また、離婚と同時に財産分与を決めることが一般的ですが、時効である離婚後2年以内であれば財産分与を請求する権利があります。
お金の話で揉めたくないと思う方もいるかもしれませんが、財産分与は相手からお金を取ると言う考えではなく、お互いの財産を公平に分ける法律で認められた正当な権利です。
離婚時には夫婦で話し合いを行い、適切にな財産の分与を受け取るべきではないでしょうか。